恋は、秘密主義につき。
「・・・すべてを知らなくても受け容れられるのはね、美玲が純粋で、心がとても綺麗だからだよ」

テーブルに両肘をつき、顎の下で指を組んだ兄さまは。静かに息を吐いた。

「本当に思いもしなかったよ。美玲が佐瀬に惹かれるなんて。・・・美玲のことなら何でも解かるつもりだったけど、僕もまだまだかな」

視線を伏せ、まるで自身に語りかけるみたいに。
胸に迫った寂しげな声に泣きそうになった。

「・・・ごめんなさい、兄さま。でも・・・っ」

膝の上で爪が食い込むほど掌を強く握りしめ、ただ懸命に。伝えたい気持ちを連ねていく。

「佐瀬さんは確かに道を外していた人だったかもしれません。私に見せたくない過去(もの)も、在るのかもしれないです。・・・でも。嘘はない人です。なにかを捨ててしまってるようで、ちゃんと持っている人です。素っ気ないふりで、私を大事にしてくれてます。言葉よりもたくさん愛してもらってます。佐瀬さんは、そういう人です」

善良そうな人間の皮を被り、狂った目付きをしたお祖父さまの周りにいる人たちよりずっと。

「とても人間らしい人です・・・!、愁兄さま」
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