恋は、秘密主義につき。
制服のスカートがしわにならないよう気にして、向かいにちょこんと腰掛けた。
私への偏愛ぶりさえ隠してくれれば、女子社員の人気も高いはずですけど、本人の無自覚でとっても残念な結果になってしまっている、たぁ君。
特に厳しそうな表情を作っている時は、ほぼプライベートな話です。間違いなく。

なので先手必勝で上目遣いに、捨てられた子犬風に悲しげな目をしてみました。

「・・・怒ってるんですか、お兄ちゃん」

いきなり抱き付かれても困るので、暴走しないように最初からお兄ちゃん呼びで、ライフポイントをできるだけ削っておくのが有効です。
目を見開いたたぁ君が片手で顔を覆い、項垂れたかと思うと何やら肩を震わせて堪えています。

「・・・・・・・・・美玲。まだ仕事中なんだ、お兄ちゃんは。そんな顔されたら、嬉しすぎて心臓が止まってしまうから止めなさい」

苦しそうに言っているわりに口許がだらしなく緩んでいて、これ以上たぁ君が崩壊する前に本題に入ったほうが良さそうでした。

「それでお話はなんですか」

私からあっさりと切り出せば、やっと顔を上げてじっと見つめ。一瞬、顔ごと緩ませたあと、咳払いをして表情筋を元に戻した。

「愁ちゃんから聞いたが、鳴宮との結婚を迷ってるそうだな?」

予想はしていましたが、やっぱりその話だったのを内心で溜め息を漏らす。

「・・・征士君に不満があるわけじゃないんです。でも、幼なじみ以上には思えない気がして・・・。兄さまには正直にそう伝えました」
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