恋は、秘密主義につき。
佐瀬さんのことはまだ、兄さまとの秘密。嘘ではない事実をはめ込んで神妙に答えると、たぁ君はおもむろに腕組みをした。

「美玲の誕生日までっていう期限付きの条件は、お兄ちゃんも賛成だ。伸びきったラーメンみたいに、ずるずる引き延ばしたところで意味もないだろうしな。さっさと断れって愁ちゃんにも言ったんだが、じい様同士の絡みを無視するわけにもいかないらしい。・・・ここからが本題だ、美玲」

眼鏡の奥で細まった眼差しが真剣味を帯び、漂う空気が変わった。

「通販事業の拡大に向けてプロジェクトが進行中なんだが、リゾート事業と組むことが決定した。リゾートから選抜した出向社員を、二課でもしばらく預かる。鳴宮征士は俺の下に付くことになった」

征士君が。出向してくる・・・?

思わず瞬きも忘れました。
このタイミングで、まさか彼と職場が一緒になるなんて。初詣で引いたおみくじが悪かったんでしょうか・・・・・・。
言葉も出ない私にたぁ君は、冷ややかに続けます。

「週明けからの出向だが、まだ一部の人間しか知らないことだ。愁ちゃんから、美玲には教えてやってくれと頼まれてな。もちろん、鳴宮にプライベートを持ち込ませるつもりはない。お前も割り切って仕事に集中しなさい」

「・・・・・・はい。お兄ちゃん・・・」

どこか遠くから声が聴こえてきたような。脳が上手に咀嚼しきれていない気もしました。
心ここに在らずでぼんやり返した私の頬を、伸びてきたたぁ君の手がぎこちなく包んでくれる。

「お兄ちゃんがしっかり鳴宮を見定めてやるからな。美玲に相応しくない男なら、二度とお前の目に触れないようにするぐらいは、本気で考えてるぞ」

「たぁ君・・・・・・」

引き締まった顔をしている時は本当に、頼りがいのあるかっこいいお兄ちゃんです。
たとえ陰で変態ストーカー扱いされてるとしても。少々うっとうしいと思う時があっても。愛おしいです。

「お兄ちゃんて呼びなさい」

眼鏡のブリッジに手をやり、クールに決めても何かこう決まりきらないところも。たぁ君らしくて、大好きです。
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