恋は、秘密主義につき。
これはあくまで『仕事』。
私の一歩うしろを歩いてついてきた征士君と、2番ブースに入るまで言葉を交わすこともなかった。

「ただいま楠田が参りますので、こちらでお待ちいだだけますでしょうか」

自分は入らずに開けたドアの端に寄り、奥のテーブル席をそっと手で示すと、征士君だけを中に招いた。そのまま入り口の外から、両手を前に決められた角度でかしこまってお辞儀。
目は合わせず、静かにドアを閉めようとして。

「レイちゃん」

初めて彼が口を開いた。
ビジネスバッグを手に佇んだままで、甘やかに名前を呼びかけてくれた征士君。

「その制服、すごくよく似合ってる。見とれそうになったよ」

思わず。・・・泣きそうになったのは。
彼を傷付けてしまった申し訳なさを、ずっと消せるはずもなかったから。
そんな風に笑ってもらえるのかも本当はすごく心細かった。

目頭が熱くなったのをどうにか堪え、私は自然な笑顔をほころばせました。
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