恋は、秘密主義につき。
「仕事と立場を利用した・・・って軽蔑してくれてもいい。でも、これだけは分かっててほしい。ただ会いたいなんて、生ぬるい考えで来たわけじゃないんだ。楠田グループのために全力を出し尽くして、課長をサポートする。俺は、レイちゃんに恥じない自分を見せたくてここにいる。・・・見て欲しくて、ここにいるんだ」

言い終わるまで。眼差しは一度も揺らいだりしませんでした。
偽りも嘘もない、彼のひたむきな想いをせき止めるだけで。注がれることも、委ねることもしてあげられない自分。

息を深く吸うように痛みを奥底に押し込め、選びながら言葉を紡いでいく。

「・・・・・・私が願うのは。プロジェクトが成功して、たぁ君や征士君の努力が報われることです。私にできることは何でもしたいって思います。大好きな従兄弟と、大切な幼馴染みのために」

束の間カップに落とした視線を戻し、征士君の目を見て微笑み返した。

「征士君が望むなら、ちゃんとそれを見届けたいです。最後まで」

幼馴染みという境界の手前で留まり続ける私と。
境界の向こう側から身を乗り出して、ぐっと手を差し出す彼。
お互いにとって。約束の誕生日までに流れる時間の意味は違うのでしょう。
それでも。
『答え』を出すために。誠心誠意。悔いが残らないよう。
胸の中をそれぞれに浚う思いを、見つめ合って。交わす。

「・・・ありがとう」と呟いた征士君は表情を和らげ、アイスコーヒーのストローに口を付けた。
前よりも短めになった髪のせいか、スーツだからなのか、大人っぽさも増した気がします。仕草も落ち着いて見えて、けれどそれは、私が普段の彼を知らないせいかもしれません。
視線に気が付いた彼がふっと笑み、なにかを思いついたようでした。
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