恋は、秘密主義につき。
「それなら、迎えが来るまで俺も一緒に待つよ」

危ないから、と屈託なく笑んで私の頭を軽く撫でる。

真摯な優しさが染みる反面。本当は、この場から彼を遠ざけてしまいたい気持ちに駆られていました。
佐瀬さんと顔を会わせることはないでしょうし、征士君にも、兄さまから派遣された『運転手』程度で記憶されるはずです。
けれど、どこか。いたたまれなくて。
それが負い目なのか自分でもよく分かりません。

「ちょっと連絡してみますね」

気取られないよう微かに息を一つ逃し、バッグから取り出したスマートフォン。
2コールで繋がる。

『・・・もう着く』

私が声を発する前に短く聞こえて、あっけなく切れた。

「すぐ来てくれるみた・・・」

いです。・・・そう、征士君に顔を向けたと同時に。柵状のガードレール越しに白のスポーツワゴンが横付けされて。
あまりの早さに呆然と釘付けになる。
< 278 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop