恋は、秘密主義につき。
「あの。・・・来ました、迎えが」

車を二度見してから、少し乾いた笑みで言い直すと。ここで失礼する挨拶を続けるつもりで、あらたまった。口を開きかけたところで、運転席側から人が降りた気配に思わず目を見張り、はっとして平静を装いました。
視界の端に見慣れたシルエットを捉えながら、笑顔をほころばせる。

「・・・今日は、わざわざ私の駅までありがとうございます。明日からのお仕事、がんばってください」

「ん。レイちゃんや楠田課長を失望させたんじゃ、本末転倒だしな」

「あまり無理しないで、ちゃんと休んでくださいね」

根を詰めすぎるんじゃないかと少し心配になって。眉を下げれば、「分かってる」と切なげな微笑みでまた頭を撫でられた。

目の前の征士君を見上げて、でも意識は全く別のところにありました。
こっちを全く向こうともしないで、車に寄りかかる立ち姿。
ただ黙って煙草をくゆらせている佐瀬さんに驚きを隠せずに。

まるで。自分の存在感を征士君に見せつけているような。
まるで。オレのものだと言われて自惚れたくなるような。

ざわつく胸の中を、落ち着かせられないままでした。
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