恋は、秘密主義につき。
「イイ子だ・・・」

低い呟きのあと、顔が寄せられ目を閉じる。
唇に吐息が触れ、今度はずいぶん優しい啄ばみ方をされて。それを物足りなく感じるのはどうしてなんでしょう・・・。


焦らされていたのだと分からないまま。
私の口許を指で拭って満足そうな佐瀬さんが、シートに体を戻して妖しい笑みを浮かべた。

「オレを妬かせるとロクなことになンねーぞ。・・・憶えとけ」

もしかしてと思いましたけど、まさかそうだったなんて。
思わず目を丸くしてから、慌てて弁解しました。

「やきもちを妬いてもらえるのはすごく嬉しいですけど、征士君は大切な幼馴染っていうだけで、ふーちゃんやたぁ君と同じ『好き』ですし、兄さまより大好きなのは佐瀬さんだけです・・・!」

「保科より?」

探るような横目を向けられて、コクコクと首を縦に振る。

「・・・そうかい」

髪を掻き上げながら、淡く口許を緩ませて上からすっと目を細めた佐瀬さんの。
とんでもない色気に当てられて、息が止まりそうになりました。

「どした」

目を奪われたままの私の頭を、したり顔で撫でる貴方。

「・・・愛してます」

考えるより先に口から零れていました。

「佐瀬さんの他にはなにも要りません。私と結婚してください」




初めて。世界で一番大好きな愁兄さまよりも愛していることを。はっきりと自覚した瞬間でした。





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