恋は、秘密主義につき。
ふーちゃんのことを前もって話しておくかどうかを、ひどく迷いました。
先入観を植え付けてしまっては、仕事に差し障りが出てしまうかもしれない。

結局ためらったまま、片付け終わったランチバッグを前にしばらく談笑していると、ランチルーム内の空気が少し賑やかになった気がしました。
お昼休憩中に飲み会の打ち合わせをする部署もあって、盛り上がっているテーブルをときどき見かけます。
特に気にもしないで、今年の秋の社内旅行はどこになるのかの予想を立てていました。

「鳴宮さんには情報が回ったりしないんですか?」

一実ちゃんがわざとらしく、征士君に話を振っています。
レーベングループは全社、レーベンリゾートの法人営業部を通して社内旅行を企画するのは知っていますけど、そもそも彼の仕事は全く関連がありません。

「んー、法人に知ってる先輩はいるけどな。知らないほうが楽しみが増えるだろ」

「ハズレだったら、先にがっかりしときたいわよねー?」

私に相槌を求める一実ちゃん。
えぇと。どう答えたらいいでしょう。
笑顔が乾きます。

「事前アンケートでだいたいは・・・」

征士君が笑いながら言いかけたその時でした。

私と彼の間を遮るように、目の前にいきなり黒っぽい影が立ちはだかって。
バン、とテーブルに何かを叩きつける音が周囲に響き渡りました。

大きく目を見開いて、その背中を呆然と見上げる。
細身の体付き、ダークブラウンの柔らかそうな後ろ髪。スーツ姿はお正月以来でも、見間違うことなんてあり得ない。

「・・・・・・ふー」

名前を呼ぼうとして。
ふーちゃんの方が早かった。

「なんでアンタが、ミレイの隣りに居座ってんの。立兄(たつにい)が何も言わないからって調子に乗んないでくれる?、鳴宮征士」

まるで機械のように感情も温度もない冷え切った声が。前触れもなく降り注いだのでした。
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