恋は、秘密主義につき。
トランクにスーツケースを積み込み、後部シートにふーちゃんと隣り合って収まる。
ウィンカーを点滅させて車が滑り出した途端、「安ホテルのベッドって、寝心地サイアク」と、欠伸をかみ殺したふーちゃんが私の肩にもたれかかりました。

「やっとミレイのベッドで、ぐっすり寝られる」

誤解を招きかねない問題発言にぎょっとして、思わず前を見やり。ルームミラー越しに流れた佐瀬さんの視線は無音で凍っていた。・・・気がします。

「知ってる?、佐瀬サン。ミレイって、ちょっと前までクマのぬいぐるみ抱えて寝てたんだよ。だから、いっつもぼくに抱き付いてんの」

今度は暴露発言です。

「そ」

それって個人情報の漏洩だと抗議しようとしたら、掌でやんわり口を塞がれてしまいました。

「ほんとお子ちゃまでお人好しで、間違っても、いいように鳴宮征士なんかと結婚させるつもりはないんだけどね」

淡々とした口調で、話が少し違う方向に逸れたような。
微かな違和感を憶えた次の瞬間。

秋津(あきつ)六道(りくどう)会傘下の深町(ふかまち)組・元若頭が。ぼくに断りもナシで、なに勝手にミレイに手ェ出してんの」

それは想像もしていなかったカーブを描いて、折れ曲がったのでした。
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