恋は、秘密主義につき。
大きく目を見開いたふーちゃんが、瞬きをしないお人形のように。見えた。
黒いガラス玉にただ私を映して、鼓動まで止めてしまったかのような。

それが数秒だったか、数十秒だったか。呪いが解けたみたいにスッと表情を戻したふーちゃん。
私の顎を捕らえたまま、綺麗な顔を寸分ゆがませることなく口角だけを上げてみせる。

「・・・・・・へぇ。言ったねぇミレイ」

心臓を鷲掴みにされて氷漬けにされるかと思ったくらい、冷たい眼差し。

「それより自分の心配しなよ、ぼくの気も知らないでコソコソさ。もちろんお仕置きされたくて黙ってたんだよねぇ? ・・・帰ったら部屋に閉じ込めて、気が済むまでぼくの好きにされる? コイツの前に顔を出せないくらい毎日恥ずかしいコトされたら、あきらめてぼくの物になるかなぁ?」

「・・・っ」

顎をつかむ指先に力が籠もり、締め付けられてわずかに顔を歪ませる私。

「そしたら北海道に連れ帰って大事に可愛がるよ。愁兄にも手出しなんかさせないから、死ぬまで二人きりでいられるね」

凍てついた怒りにも聞こえた。
でも、裂くような悲鳴にも聞こえた。

「ふ」

小さく上げかけた叫びは、飲み込まれてなくなった。
塞がれた口。
隙間からねじ込まれる舌。
反射的にふーちゃんを押し返そうとした腕も逆に手首を取られ、シートの背もたれに躰ごと押さえ付けられた。
一瞬にも思えたし、無我夢中で。
混乱して必死にもがく。次の瞬間。

車がものすごい勢いで横滑りし、タイヤを軋ませて急ブレーキがかかった。
シートベルトをしていなかったふーちゃんの体が前後に振られ、したたかに前のシートに後頭部を打ち付けてひっくり返る。

まるで白昼夢でも見ているかのように、私は呆然とするだけでした。
< 304 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop