恋は、秘密主義につき。
「・・・ッたいなぁ?! ってか、バカなのアンタ! こんな半端なマネしないで、どうせなら本気で()りなよ、ヤクザのくせに!」

シートとシートの間に仰向けに転がったふーちゃんが、顔を(しか)めながら悪言を吐く。

「・・・ガキの挑発にいちいち乗っかるほど、若くないんでねぇ」

佐瀬さんは億劫そうに答え、斜めに傾けた視線が私を捉えてわずかに細まった。
すぐに逸らし前を向き直ると、淡々とした声で続ける。

「テメーの女にちょっかい出されるのはキライなンでな。・・・ケンカ売る相手を間違えるなよ、ボーズ。長生きできねぇぞ」

「そのままソックリ返すよ、オッサン!」

あくまで憎まれ口で、ようやく体を起こしたふーちゃんは。
着ていたTシャツとワークパンツをはたきながら、隣りに座り直してぐっと私の肩を引き寄せます。

「アンタ・・・、本気でミレイに惚れてるわけ?」

低い声にはっとして振り仰げば、そこにはふーちゃんのこれまでにない厳しい横顔がありました。

「どうせ、うちのジジィを前に尻尾巻いて逃げるんだろ? なら今すぐここから消えなよ、クソ目障りだから」


それを確かめるのが、ふーちゃんの真意だったんだと。初めて気付いた私だったのです。
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