恋は、秘密主義につき。
道を戻し、家に向かう途中で。
煙草が切れた、とコンビニに寄った佐瀬さん。
だいたい買い置きがあって、切らすことなんて今まで一度もなかったので不思議に思っていたら。

ふーちゃんがメンズ用品のコーナーで足を止めた隙に、裏側のお菓子の陳列棚と棚の合い間の通路に強引に引っ張られます。

「佐・・・っ」

反動で佐瀬さんの胸元に飛び込んでしまい、顔を上げたのと同時に。目の前が翳って、噛みつくようなキスが繋がっていました。

少し乱暴に舌が絡んで暴れたあと、何食わぬ顔で放した貴方は。
離れ間際に頭をひと撫でして、「妬かせンな」と妖しく耳元で囁いた。

ああ、もう。本当に貴方には敵いません。

黒いシャツの後ろ姿を目で追いかけながら、火照ってしかたのない頬を隠すように両手で包む。

ふーちゃんに散々に言われて、普通なら怒って悪態をついてもおかしくないくらいです。
感情を荒げもしないで冷静に、どこまでも大人の風格を崩しもしなかった。
あるいは。
生き死にの厳しい世界で上に立つ人だった、その片鱗をうかがわせた。・・・とも思えた。

ふーちゃんは見下すような言い方をするけれど。
変えようのない過去がどうであっても。今の佐瀬さんに、どんな非があるんでしょう。

どこか理不尽で、口惜しい気持ちがしました。
でもきっと貴方は億劫そうに、『他人なんざ、ほっとけ』って。飄飄と笑ってみせるんでしょう。

自分という筋を一本、真っ直ぐに通していて。
それを貫く強さを持っていなければ、できない生き方をしている貴方の。

隣りにずっといたい。



これまでになく強く願う自分がいました。



「ねぇミレイ、コンビニスイーツ買ってこうよ! 優美さんも好きでしょ?」

嬉しそうに私の手を引いて、コーナーへと連れて来るふーちゃん。
いつか。この温もりがなくなってしまうかもしれなくても。


締め付けられるような痛みを、胸の奥底に仕舞い込んで。・・・願いました。





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