恋は、秘密主義につき。
車内ではずっと、ふーちゃんに肩を抱き寄せられたまま。タブレットであれこれと検索しながら、これが欲しい、どこに行きたいと今度の週末のお出かけが決定済みです。

ウィンドウの外を流れる景色もいつしか見慣れた街並みに変わってきて、そろそろ家に到着する頃には。日中は我慢していたらしい雨粒が、ガラスに細かい点と線を描いていました。

暗く立ち込める日暮れの空。
フロントガラスのワイパーが、ときどき左右に寝たり起きたり。

「あのさ、ミレイ」

ふーちゃんがふとタブレットから目を上げました。

「どうせ立兄から聞くと思うけど、来週の土曜、(とおる)おじさんの誕生日パーティだからね」

「えっ? あ、そうなんですね」

唐突な話にきょとんとしていると、呆れたように溜息を吐かれる。

「みんな出席。面倒だからぼくが毎年、ミレイの分も断ってたんだよ。そしたら今年はこっちにいるのバレちゃうし、顔くらい出せってさ。・・・愁兄も来るから大丈夫だろ、たぶん」

最後の方は独り言みたいに。

徹おじさまはレーベンパートナーの現社長、そしてパパの弟さんです。確か二つ違いで、4年前に43歳の若さでグループの頂点に立っています。
お正月には両親と一緒に挨拶をして気安く会話もしますけれど、誕生日のパーティが毎年開かれていたのは初耳でした。なぜか、ふーちゃんが私の分まで出席を断っていたことも、です。

「ついでにドレスもぼくが見立ててあげるよ、今度の休みに。・・・てことでヨロシクね、佐瀬サン?」

素っ気なく言い、沈黙で返されたこともふーちゃんは気に留めていない様子で、またタブレットに視線を落としました。

それだけのことでしたけれど。漠然となにかが心の隅に引っかかって。
その横顔に見入ってしまう。

「・・・なに?」

間近で、こっちに向けた視線とが絡み合う。

「キスならあとで、いっぱいしてあげるよ」

「ち。がいますぅ~っ」

「お風呂も一緒に入るよね」

「ふーちゃあん~~っっ」

運転席から漂ってくる冷え冷えとした空気に、あたふたする私。
意地悪そうに口角を上げるふーちゃんは、いつもと変わらないように見えていました。





けれど。

予感でしかなかった“嵐”は、音もなく(そば)に待ち受けていた。
暗い雨雲に隠れて。

私の行き場をなくすかのように。

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