恋は、秘密主義につき。
そうして、ふーちゃんのペースに巻き込まれながら慌ただしく。同居生活もあっという間の2週間目。
たぁ君から正式に言い渡された、徹おじさまの誕生日パーティ当日がやってきたのでした。



「表向きの主催は楠田グループ一同だけどね。ジジィの資金集めでやってるだけ」

梅雨明けって宣言してもいいような青空の下。
インターチェンジから高速道路に入り、外を緑の鮮やかな田園風景がぐいぐい流れていく車内で、ふーちゃんが冷ややかに毒づきます。

「体裁だけで身内を招集するとか、ほんとバカ」

会場は、レーベンリゾートが手がけたリゾートホテルの一つ。
結婚式場やチャペル、ゴルフ場もあって、豊かな自然に囲まれる避暑地。
中等部の頃だったか、お正月にしか会わない程度の親族の結婚式に、家族三人で招かれた記憶がほんのりあります。

「いい、ミレイ? 向こうに着いたら、ぼくから離れないでよ? 楠田永栄(ながえ)の孫娘に取り入ろうって連中(クズ)ばっかりなんだからね」

「分かってます」

溜息交じりに苦笑いの私。

なにかをお願いする時は、お祖父さまに遠慮なく甘えるんですから。
政治家としてのお祖父さまに思うところがあるだけで、本当は大好きの裏返しなんだと分かっていますけれど。

「愁兄と立兄は挨拶回りがあるだろうしさ。本職なんだから、佐瀬サンには盾くらいやってもらわないとね」

私と並ぶ後部シートから運転手の佐瀬さんに向かって、相変わらず聞こえよがしな言い様。

「佐瀬さんはもう、本職でも現役でもないですよ」

やんわり(いさ)めると、息を呑むほど冷たく見下ろされた。

「ねぇミレイ。ずっとオッサンばっかり見てるせいで、目が腐ったんじゃないの? コレのどこがシロウトに見えるワケ?」

思わず言葉に詰まり、それでも懸命に言い繕う。

「大人っぽくて格好いいじゃないですか。その、ちょっと迫力があるだけです!」

「はぁ?!」

ふーちゃんが目を吊り上げたのと同時に、前の方から、むせるように吹き出した気配。

「・・・笑ってる場合じゃないからね、アンタ」

心底うんざりした溜息を吐き、ふーちゃんは綺麗な顔をいっそう不機嫌にする。
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