恋は、秘密主義につき。
途中、お手洗い休憩も兼ねてサービスエリアに寄った時の、周囲からの視線と言ったら。
日本の首都よりは北に向かっていたので真夏日というほどでもありませんが、わりと黒ずくめのパーティ仕様な私たちです。・・・たぶん何かのコスプレかと思われたことでしょう。

屋根付きの喫煙スペースで煙草をくゆらせる佐瀬さんを、建物の入り口辺りで見かけた時。
威風堂々とした佇まいに、やっぱり目を奪われました。
暑さなんて微塵も感じていないようなポーカーフェイスで。ひどく様になっていて。

佐瀬さんの過去の、ほんの一コマを垣間見た気がした。
貴方が。なんだか遠くに見えてしまって。

心細くなった。

イカナイデ。・・・・・・ふと、そんな言葉が零れそうになっていた。



私の視線に気が付いた貴方は黙って見つめ、やがて灰皿に吸い殻を放り込んで、こっちにゆっくりと歩いてきてくれる。

「ミレイ、ほら冷たい水!」

エントランスの自動販売機はミネラルウォーターが売り切れで、建物内の売店まで探しに行ってくれたふーちゃんも、ちょうど戻った。

「しょうがないから、ついでだよ」

傍まで来た佐瀬さんに向かって素っ気なく缶コーヒーを下投げで放り、難なくキャッチした彼も「・・・どーも」とだけ素っ気なく礼を返す。


ふーちゃんは、本当に気に入らない相手は目にも入れません。口で言うほど佐瀬さんを悪く思っていないので、内緒で笑みをほころばせた私です。



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