恋は、秘密主義につき。
200人はいそうな招待客のほとんどはグループ企業の取引関係者か、お祖父さまの後援関係者でしょう。
徹おじさまの長男、翔吾(しょうご)君は、後継者となるべく経営術を学ぶためアメリカに留学中で会えませんでしたし、ヨウ君もヒサ君も仕事が大詰めで欠席です。

つまるところ。おじさまに挨拶を済ませてしまえば、顔見知りもなく手持ち無沙汰という他ありません。
佐瀬さんにもとても退屈な思いをさせているんだろうと、申し訳なくなりました。

「佐瀬さん、疲れてませんか?」

「あー・・・まあ、久しぶりで肩は凝るがな。どこもこんなモンだろ」

緩く口角を上げてみせる彼。

「それより場所を変えるか?」

「そうですね。少し外の空気も・・・」

「失礼。・・・楠田美玲嬢でいらっしゃいますか」

唐突に遮られて、声のした方へと振り返る。
そこに、仕立ての良さそうな三つ揃いを着た、三十歳前後の男性が愛想良く笑みを浮かべて立っていました。 
< 318 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop