恋は、秘密主義につき。
わたしも傾かせ気味に佐瀬さんを仰ぎ。
目が合う。
静かな。深い眼差し。心まで見透す。

一番大事なひとです。・・・って。
お祖父さまにも聴こえるくらいの声でここで言ってしまったら。

いっそどうにでもなるんじゃないかと。そんな衝動がもたげた。
好きな人を好きって、言いたいだけなのに。
どうして。
イケナイノ。

「・・・彼は、私の」

「彼は僕の大事な友人なんですよ、小笠原さん」

柔らかな声がして、呼ばれた当人も驚いたように後ろを振り返る。

「愁兄さま・・・っ」

濃紺ストライプの三つ揃いを着こなした、すらりとした立ち姿が目に映って思わず胸元に小さく飛び込んだ。

「放っておいて悪かったね美玲。少し挨拶に時間がかかって、遅くなったかな。・・・ほら、僕に顔を見せてごらん」

見上げれば、ふわりと薫るような微笑みが注がれて。そのまま、下ろした前髪の上から額に口付けられた。

「今日の美玲は、とびきり可愛いね。双葉は趣味がいいから」

兄さまこそ! 言葉にならないほどの神々しい美しさで、格好良すぎて、眩暈がします・・・。
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