恋は、秘密主義につき。
「永栄氏も溺愛されていると聞きましたが、お噂どおりでした。今も、ぜひ食事をご一緒したくて美玲さんをお誘いしたところだったんですよ」

悪びれもしないで小笠原社長が横から割り入り、にこやかに。
この若さでここまで会社を大きくした人ですから、やっぱり心臓の造りが違うんでしょうか。

兄さまは私の腰に手を回すとやんわり抱き寄せて、品良く笑み返しました。

「小笠原さんのような方におっしゃっていただけて光栄ですよ。・・・今日は特別に僕の宝物を皆さんにお見せしていますが、そろそろ箱に仕舞う時間のようですので。いずれまたの機会に」

「それはとても残念ですね。次を楽しみにするとしましょうか。ではこれで失礼します。美玲さんにお会いできて良かった」

思っていたよりも引き際はあっさり、爽やかな笑顔を残して去っていく。

「佐瀬にも動じないなんて、なかなかの強者だね彼。それとも君が丸くなったのかな」

「・・・さてねぇ」

肩を竦めた佐瀬さんと。意味ありげにクスリと零した兄さま。
素っ気ないやり取りも、気の置けない証拠です。

「そう言えば、たぁ君とお祖父さまもまだ会えてないんです!」

はっと思い出した私に、兄さまが今まで忘れていたように言います。

「おじい様は今は少し外しているけど、立樹なら、さっきから後ろにいるよ」

さっきから?

「美玲にそのまま飛びついて舐め回しそうな勢いだったからね。“待て”って言ってあるんだよ」

・・・・・・えぇと。

にっこりと微笑む兄さまの視線を追いかけて、後ろを振り向く。と。
3mくらい離れた場所に、今にも涎が垂れそうに崩れかけのアブナイ顔で、尻尾を千切れんばかりに振り回しているヒト型の大きなワンちゃんが一匹。・・・もとい一人。
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