恋は、秘密主義につき。
「お・・・じいさまは、佐瀬さんとお知り合いだったんですか・・・?」

やっとのことでそう口にすれば、変わらずにニコニコと笑顔で返る。

「愁一の紹介だったかねぇ。彼と、彼の上司と何度か食事をしたのを思い出したんだよ」

「・・・そう、だったんですね」

上司。・・・千里さんのご主人だった組長さん。
テレビドラマを観ていれば、なんとなく理解はできます。
大きな権力を持つ政治家にこそ切って離せない、裏の繋がり。その一つが佐瀬さんだった。

彼はそういう世界に身を置いていたのだと。
お祖父さまも、そういう世界に君臨しつづけてきたのだと。

初めて現実味を帯びた。

「今はレイちゃんのボディガードを引き受けてくれてると聞いて、ぜひお礼を言いたくてねぇ。征士君との結婚が決まるまで、よろしくお願いしときますよ」

あとの言葉は佐瀬さんに向かって。悪意もない笑顔で。
征士君の名前が出た瞬間、咄嗟に「お祖父さま・・・っ」と声を上げ、包み込まれていた手を強く握り返していました。

「ごめんなさいっ、征士君との結婚はお断りさせてください・・・!」

こっちを向いた驚きの表情にもかまわず、言うなら今だと背中を押されたように。

「本当にごめんなさい! 征士君は私をすごく想ってくれていて、嬉しかったんです。幼なじみとして大好きなのも変わらないです。でも、結婚は違うんです・・・っ。自分でちゃんと好きになった人としたいんです。だから」

「ミレイは、そこの元ヤクザと結婚したいんだってさ。悪いハナシでもないよねぇ? 愁兄もそう思ってるから、なにも言わなかったんだろうし?」

それまで黙っていたふーちゃんが腰を浮かせ、やおら目の前に立つと。
二の腕を掴んで私を引っ張り上げ、お祖父さまから離して自分の腕に閉じ込めてしまう。

いきなりで呆然としながら見上げた、ふーちゃんの横顔は。
怖いくらいに冷たく、お祖父さまを睨み据えていたのでした。
< 327 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop