恋は、秘密主義につき。
穏やかな口調で窘められ、あからさまに不本意そうでしたけど。素直に腕を解く。

「まだ佐瀬サンのじゃないし!」

憎まれ口をひとつ叩き、「ほら、行けば?」と私の背中を軽く押した。

反動で前に飛び出した一歩。あとは連鎖反応のようにワイン色のカーペットの上を、脚が勝手に佐瀬さんに向かっていく。

伸ばされた腕に捕まえられたのか、私から手を差し出したのか。あっという間に貴方の胸元に抱き込まれ、ここが自分の“場所”だと、骨の髄まで染み込んでいるようで。

馴染んだ匂いを吸い込み。見上げたと同時に寄せられた唇。受け止めて、少し泣きそうになった。

さっきの容赦のない気配は、確かにお祖父さまに向けられていて。
愛おしむかのように私に目を細める貴方も同じ人。

「どうして教えてくれなかったんですか・・・?」

どんな答えでも、嘘だったとしても。
私にとって『真実』。ただそれだけです。

「知らなくていいコトをいちいち教えてやるシュミはねぇな、・・・この先も」

「私のため・・・にですか?」

「他にあったか?」

そっと首を横に振った。

「・・・イイ子だ」
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