恋は、秘密主義につき。
同級生だった兄さまと佐瀬さん。そして佐瀬さんとお祖父さま。あっても不思議じゃない接点だったのを、今更のように腑に落ちた。

裏社会との関係性なんて、表沙汰にできないことだから兄さまも。
愛情。正義。罪。頭の隅を過ぎっていく言葉。
簡単に言い表せない複雑な心境を、けれど今は飲み込んだ。

佐瀬さんは私の頬を指先でなぞり、じっと見つめたあと、肩を抱き寄せたままでお祖父さまの方へおもむろに向き直った。

「コイツはオレがもらうが、断りを入れに来たワケじゃねーよ。・・・事後報告だ、気にすンな」

冷笑した気配。
顔を上げようとしても抱き込む腕の強さにさせてもらえない。

「やれやれ。せっかく可愛い孫娘に似合いの王子様を用意してあったのに」

溜め息雑じりで本当に残念そうに眉を下げるお祖父さま。
胸の奥がズキンと痛むのを堪え、見守るしかない私。

「まぁでも八島(やしま)組長(さん)の下にいたキミを、これでも高く買っていてねぇ私は」

眉を下げながらも穏やかに。

「そう言えば小暮君が、佐瀬君ならいつでも歓迎だって言ってたなぁ。良かったらいつでも私が口利きするよ」

にこにこと笑みながら言った刹那。
佐瀬さんの空気が変わった。
身が竦むほどの。凍てついた冷気に。

「・・・・・・さすがだねぇ。大したモンだ、オレの前で小暮の名前を出せるなんざ」

感情の消えた声でした。
まるで流れてる血まで凍らせてしまったのかと思えるくらい。


これが。私の知っている佐瀬さんなのかと思ってしまった。くらい。
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