恋は、秘密主義につき。
「・・・深町(ウチ)を潰して、テメェがのし上がれた礼でもしろってか? あー・・・、忘れちゃいねーよ。これでも義理堅いンでね」

佐瀬さんが薄ら笑いを浮かべた気配がした。

お祖父さまに見えない切っ先を突き付けながら。
そのまま。躊躇うことなく喉元を切り裂く姿が、瞬間に浮かぶくらい。冷酷で冷静に見えた。

「アンタはとっくに忘れてそうだな、死んだ飼い犬の名前なんざ。・・・親父も極道冥利に尽きるだろうさ」

感情をそぎ落としたかのような。冷え切った声だった。

意味のすべてを理解できたわけじゃありませんでした。
ただ。小暮という人が佐瀬さんと千里さんの居場所を壊して、組長さんを死に追いやった。お祖父さまにも、何らかの関わりがあった。

佐瀬さんの深い怒りが肩を掴まれた掌から。直に染みこんでくるようでした。

「もちろん、彼のことは胸を痛めていたよ。六道会の内部事情は、私なんかが及ぶところでもないからねぇ。惜しい友人を亡くして本当に残念だった・・・」

神妙な顔付きでお祖父さまが瞑目する。
芝居がかった演技とも思えなかったし、純粋に故人を偲んでいる以外には見えなかった。

「親父の後釜に、小暮を据えてやった男がほざくなよ」 

「彼ともいい友人になれそうだっただけで他意はないんだよ。佐瀬君の気に障ってたなら、申し訳なかったねぇ」

眉を下げて済まさそうに言うのを、佐瀬さんは一瞬沈黙した。
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