恋は、秘密主義につき。
どう読み取ったらいいのか分からない不透明な色。

やっぱり。お祖父さまへのわだかまりは根深くて、そんな簡単に拭えたりしない・・?
貴方にそんな顔をさせるくらいなら。断ってください、と思い切ろうとした矢先。

「いいだろう、・・・今回は乗せられてやる」

低く凄みを孕んだ声は私じゃなく。もう一度お祖父さまに向けられたものだった。

「佐瀬さん・・・!」

小さく叫びが漏れたのを聞こえていないかのように。淡々と続ける貴方。

「言っとくが、鎖の外れた“狂犬”に首輪をはめようなんざ、考えねぇ方が身のためだぞ」

「キミのことは、愁一が心得てるだろうからねぇ。口出しは無用だと承知してますよ」

「・・・よく言いやがる」

わずかに口角を上げて冷笑した佐瀬さんにも、お祖父さまは柔和な笑みを崩すことがありませんでした。

「まあまあこれも、縁ということだろうねぇ。レイちゃんの可愛らしいウェディングドレス姿が楽しみだよ。ただなぁ、佐瀬君も少し忙しくなるかもしれないからねぇ。その辺のことは愁一に任せて決めたらいい」

「あ・・・、はい」

終わりの方は私にだったのを、曖昧に微笑んで頷き返す。

「今日は徹の誕生祝いにも増して、とてもおめでたい話になって嬉しいねぇ。双葉も北海道に帰る前に、いつでも顔を見せにおいで」

言いながら、やおらソファから立ち上がるお祖父さま。次のスケジュールもあるんでしょう。

「佐瀬君、レイちゃんをどうか宜しくお頼みしますよ」

「余計な世話だ」

「・・・なに勝手に完結させてんだか」

あくまで冷ややかな佐瀬さんのあとを引き取るように、ふーちゃんがわざとらしく溜息を吐くのが聞こえて。

「そろそろ、ここを出ないといけない時間で済まないねぇ。次は皆でゆっくり食事ができるのを、楽しみにしてますよ」

愛しみ深く私達を見回したお祖父様はそう締めくくり、穏やかにドアの向こうに見えなくなったのでした。
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