恋は、秘密主義につき。
高速を下りた頃には空も、濃淡の入り交じったグラデーションに染められていて。
あとは家に帰るだけとそのつもりでいたら、ふーちゃんが思いも寄らないことを言い出しました。

「今日は比佐(ひさ)兄のトコに泊まるから、一番近い駅で降ろしてよ、佐瀬サン」

「ヒサ君なら、今日は山梨じゃなかったですか?」

今の時期は夏祭りや花火大会の真っ盛り。花火職人のヒサ君にとって、一番忙しいシーズンです。
お土産を買って送る、と短いラインが来ていたのを思い出して。

「ずっと留守にしてるらしいからさ、部屋の空気入れ替えてやった方がいいし。優美さんには、ぼくと一緒だって言うからミレイもどっかに泊まってくれば?」

スマホの画面をスクロールさせながら、気のない風に。

どこかに。・・・って。
何度か目を瞬かせ、ふーちゃんと運転席の佐瀬さんを思わず交互に見やってしまう。

ちょっと前までは、佐瀬さんと二人きりにさせないように、私を独占したがっていたふーちゃんが。
別人になってしまったのかと、かえって心配になったくらいです。
こっちを向いたふーちゃんが不機嫌そうに目を眇めて、手を伸ばす。

「なに変なカオしてんの」

「ふぃふぇふぁいふぇふ(してないです)」

両頬をお餅を引っ張るみたいにされている方が、大変な顔になってると思います~。

「電話するから明日また迎えに来てよ」

「ふぁい」

「一日くらいミレイを貸してやってもいいってだけだからね。勘違いしないでよ?」

わざと冷たい視線も。本心じゃないって分かっているので。
まだ摘ままれたままで破顔する。

「ふーふぁん、ふぁふぃふぁふぉぅ(ありがとう)」

「なに言ってるか分かんない」

唇に吐息が押し当てられ、解放されたかと思えば、何事もなかったようにスマホを弄りはじめるふーちゃん。

なんだか今日一日で。取り巻く風が、今まで向いていなかった方向へと流れを変えたような。そんな気がします。





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