恋は、秘密主義につき。
さくさくとママに電話をかけ、『遊びに行くから、帰るのは明日』だとあっさり二人分の承諾を取り付けたふーちゃんを、ヒサ君の住んでいる場所にアクセスしやすい駅まで送り。

もちろん車から降りるまでの間、佐瀬さんにわざと見せつけるような過剰なスキンシップで、ふーちゃんが私を離すことは1秒たりともありませんでした。



スーパーとコンビニに寄って必要なものを買いそろえ、空きビルの佐瀬さんの部屋に戻ってきた時。すごくほっとした自分がいました。生活感も飾り気もない、けれど、もうここが居場所なんだと。

「風呂はいるぞ」

上着をソファに放り投げ、うんざりした表情でネクタイの結び目に指をかけると、少し乱暴に襟元を緩める佐瀬さん。

どうぞお先に、と言おうとしたら。呆気なくドレスを脱がされてバスルームに直行。シャワーと別の熱を浴びせられて、最後に上から下まで洗われた。

のぼせ気味に脱力した私をバスタオルに(くる)んで洗面台の前に座らせると。自分も腰にバスタオルを巻き付けただけの格好で、髪を乾かしてくれる。片手にドライヤー、もう片手で不慣れに手櫛を通しながら。

鏡越しに目が合って。貴方はでも、黙って続ける。どこか機嫌よさそうに。
頭を撫でられるのとはまた違った、くすぐったいような、とても心地いい感覚。

お願いしたら何度だって、こうしてもらえるでしょうか。
一緒に暮らせるようになったら。
他愛もないことが。もっと普通に叶うでしょうか。
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