恋は、秘密主義につき。
ライトアップされた水槽の中でパステルカラーに染まりながら、クラゲがゆらゆら回遊している。
パープル、ピンク、オレンジ、グリーン、ブルー。暖色から寒色へ。クラゲ自身が発光しているみたいに。幻想的な光景(せかい)

「すごく綺麗ですねぇ」

感嘆して、しばらく足を止め見入ってしまう。

「レイちゃんはクリオネっぽいな」

クスリと聴こえて、どの辺が?と訊ねようとしたら。
ぐっと引き寄せられた躰ごと、征士君の腕の中に閉じ込められていました。

「征・・・」

「ごめん。・・・このままで聴いて」

少しだけ驚いて身動ぎかけた私の頭上に、やがて静かな声が降った。

「やっぱりレイちゃんが好きだ。まだ諦められない」

予想できなかったわけじゃなく。冷静に受け止めて。
どんな言葉でも聴くことが最後の責任だと、黙って大人しく目を閉じる。

「・・・“彼”は。“向こう側”で生きる(みち)しか知らない男だよ。レイちゃんが願う幸せを叶えられるって・・・本当に思うの?」

一段下がったトーン。
耳の奥に低くたわんで、脳まで行き渡った瞬間。息を忘れた。

どうして。

どうして征士君が佐瀬さんのこと・・・!

咄嗟に胸元を押し戻すようにして躰を離し、彼を見上げる。

凍り付いて時間ごと止まったようでもあり。
突風のように、ものすごい勢いでなにかが吹き抜けていったようでも。


征士君は真顔でじっと私を見据えていた。
責めているように見えた。
・・・悲しそうにも見えた。
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