恋は、秘密主義につき。
「駅に迎えに来た彼がレイちゃんの好きな人だ・・・って、直感したんだあの時。レイちゃんが幸せになるなら、きっぱり諦めるつもりでいたよ。・・・でも。悪いけど渡せない。彼はいつかレイちゃんを不幸にする。普通の生き方は絶対にできない男だ」

開いた口からおもむろに紡ぎ出される言葉が。小さくぶつかりながら乾いた音を立て、石になって私の中に落ちてくる。

「・・・・・・調べた、んですね」

「・・・軽蔑してもいいよ」

首を横に振って。
視線を俯かせ、胸の内で深く、深く息を逃した。

散らばって転がったいくつもの欠片。
征士君からもらった、一途でひたむきな想いをひとつひとつ。
そっと掌に拾い集めてあげるしか、私にはできない。
痛みと一緒に、ずっと大切に仕舞っておくことしかできない・・・・・・。


「・・・私は。私が知っている佐瀬さんだけで十分なんです」

ぐっと顔を上げ、征士君にもう一度目を合わせる。

「他人にどう見えているとしても、不幸にするくらいならきっと黙って私の手を放す人です。過去は変えられなくても、どんな色だったとしても。未来の色は変えていけます、だから」

私は佐瀬さんと結婚します。・・・言い切って静かに頭を下げた。

カーペットを踏む、黒い革靴の爪先は微動だにしないでそこに在った。
私も下げたまま動かなかった。

彼が望むのは『ごめんなさい』なんて言葉じゃないから。
ただ贖罪の沈黙を。捧げ続けるだけでした。
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