恋は、秘密主義につき。
ひどく気怠い微睡みからぼんやり醒めると、目の前に愛しい人の後ろ頭。
クセなのか少しうねりのある、襟足が長めの黒髪。

顔は見えてないけれど。なぜかとても安心する。
ここにいてくれるだけで。・・・しあわせだと思える。

ふと。枕の上の乗った自分の左手首が目に映る。
佐瀬さんにはめてもらったシルバーのバングル。

そっと、なぞる。


これは。

愛を口にしない貴方の心が、いつもここにある証。
裏切らない証。

結ばれている証。
私の心が共にあると誓う証。


そっと。口付ける。


“指輪”より、“約束”より。確かなもの。
離れていても。繋がるもの。


私・・・、もう貴方の“妻”なんですね・・・・・・。


そっと。引き締まってがっしりした肩に額を寄せる。


一晩中、私の中に放たれた熱を思う。
もし。二人の新しい命を授かったら。

それこそ貴方からしか贈ってもらえない、世界にたった一つのバースディプレゼント。
今の私はまぎれもなく、世界で一番しあわせな“花嫁”。


溢れる想いに、自然と笑みがほころぶ。
噛みしめる。胸の奥にぎゅうっと。





この部屋の眼下に見渡せる一面の街並みのように。

未来は、遙かまでパノラマで広がっているような。

希望(ひかり)期待(ゆめ)を瞼の裏に思い描いて。



そっと。目を閉じる。




目映(まばゆ)ければ目映いほど。
差す影が色濃いことも。

貴方が。
どちらを見つめていたのかも。知らずに。



・・・・・・夢見心地に。





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