恋は、秘密主義につき。
手作りのお弁当は。早起きしてくれたのかなとか、キッチンに立つすらりとした姿を想像しながら、心遣いに感謝して残さずにいただいた。

「自己流で適当だよ。レシピに拘ったりはないんだ」

フリースタイル、と征士君は屈託なく。

「私もそんな感じですけど、たまに失敗しちゃいます」

「ああ、俺も。こないだなんか」

お互いの料理の失敗談を打ち明けあったり。

すごいご馳走じゃなくても、誰かが誰かの為っていう特別なスパイスが効いているんでしょうか。
ママがいつも作ってくれるご飯とはひと味、・・・ふた味くらい違う気がして。『美味しい』の新しい種類を発見したような。
作ってくれたのが彼だからか、男の人に作ってもらった新鮮さなのかは。見極めがまだ難しいところかも知れません。


食後は、水筒のお湯にティーバッグを浸してハーブティまで。
至れり尽くせりだし、鳴宮征士という彼の人柄について、この間よりも関心が深くなったのは確かだと思った。

水筒のキャップにもなる持ち手付きのカップをそっと脇に置くと、私はあらたまって、隣りでリラックスしたように胡坐をかいて座っている彼に顔を振り向けた。

「征士君。訊いてもいいですか」
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