恋は、秘密主義につき。
何を話すわけでもなく、やがて通りから一本外れたところのコインパーキングに到着して。
そこに停められていた、ガンメタリックのスポーツタイプのコンパクトカーに寄っていった彼が、私を振り返った。

「狭い車で悪いが、どーぞ?」

「お邪魔します・・・」

恐る恐る助手席に乗り込んだ瞬間。強烈に鼻の奥にまで染みてきそうな、煙草の苦い匂いで息が止まりそうになった。

愛煙家を完全に否定するつもりはありません。いえ、健康の為には止めた方がいいと思います。ストレスだとか、無いと困る人がいるのも理解してます。・・・います、けれど。

「・・・・・・・・・あの、すみません・・・」

鼻の息を止めて、半濁音のような声で弱弱しく。

「何?」

細めたように傾けられた視線に、思い切って言う。
家に帰り着くまで息を止めていられる自信はありませんから・・・。

「窓を開けていいですか・・・? 煙草の匂いがちょっと・・・・・・」

涙目になっていたかも知れない私に束の間、固まった佐瀬さんは。

「あー・・・。悪いねぇ」

参った、って表情を浮かべたあと。全部の窓を全開にして、車を発進させたのでした・・・・・・。


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