恋は、秘密主義につき。
さすがに全開で走りっぱなしというわけにもいかず、少しだけ下げた窓から風を通しながら。佐瀬さんがそうしろと言うので、マスク代わりに鼻と口許にハンカチを当てて、助手席で所在無さげに小さくなっている私。
人見知りの克服どころか、これでは会話もままなりません。

匂いが薄らいで慣れてきたのか、鼻が馬鹿になったのか。それほど酷く感じなくなったように思えて、ハンカチごと両手を膝の上に置く。

佐瀬さんは片手でハンドルを握り、ずっと黙ったままだった。
兎にも角にも、つまり今日から彼は私のボディガード。・・・ということ。
守ってくれる人のことを何も知らないでいるのは、嫌です。何となく。
そう思ったから。お腹に力を込め、意を決して自分から話しかけてみた。

「・・・あの。少しお話をしてもいいですか」

遠慮がちに問うと、間があってから「どーぞ」と返った。
つっけんどんでも、ぶっきらぼうでもなく、おおよそ普通に。
特に嫌われてはなさそうで、ホッと胸を撫で下ろしながら、思い付いたことを訊ねてみようと。

「佐瀬さんは、兄さまとは仲が良かったんですか?」

さっきよりも間が空いて、どうかしたのかと彼の横顔を窺えば。また苦虫を嚙み潰したような表情。

「あの保科と、そんなカワイイ付き合いが出来るヤツがいるのかねぇ・・・」

どことなく哀愁まで漂ってます・・・?
< 68 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop