恋は、秘密主義につき。
「あーまあ、そうだな。逃げるが勝ちってか」

クックッと喉の奥で笑いをくぐもらせて、可笑しそうに。

「遠からずってことにしとくかねぇ。・・・なかなか面白いお嬢ちゃんだ」

少し垂れ気味だけれど切れ長の黒い眸がやっと、こっちに流れて。
ぼさっとした髪を掻き上げる気怠げな仕草を、何となく見つめてしまった。

「何? 珍しい? オレみたいなオジサン」

「えっ? はい、そうですね」

自分の周囲では見かけないタイプの人には違いない。正直に。 

「楠田のお嬢サマとは違うセカイのイキモノは、初めてか」

違う世界。と彼は言った。
肌で感じる空気が目新しいというか、初体験と思っただけで。

「佐瀬さんを知らないっていう意味では、そうかもしれないですけど」

頭を巡らせて言葉を探す。

「同じ言葉を話して通じているんですから、何も違わないですよ?」

私はにっこり笑ってそう答えた。
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