恋は、秘密主義につき。
「今日はお招きいただき、ありがとうございます」

爽やかなブルーのオックスフォードシャツに、生成り色の細身のパンツスタイル。甘やかに笑んだ征士君にママは満面の笑顔。いつにも増してお化粧も念入りです。

「いいえぇ、どうぞお上がりになって?」

リビングでは、堅苦しくない程度の恰好のパパがソファから立ち上がって彼を出向かえ。こちらも十年ぶりの顔合わせ。

「ご無沙汰しています、鳴宮征士です。このたびは美玲さんとの交際をご承諾くださって、ありがとうございます」

「いやまあ、その辺のことは当人同士に任せるつもりでいますから」

少し困ったように笑いながら、のんびり挨拶を返すパパ。折り目正しくお辞儀をする征士君の方が立派に見えます。

「じゃあ美玲には、ちょっとお手伝いをお願いしていいかしらぁ」

「いいですよ」

いつもより1オクターヴは高い声で、キッチンに向かうママがにっこり。
私が家庭的なところをアピールするいい機会だとかで、小芝居も入っています。・・・気の済むようにさせてあげようと思います。
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