恋は、秘密主義につき。
征士君の膝の上で開かれている、高等部の卒業アルバム。隣りから覗き込み、友達や自分が映り込んだ写真のエピソードを挟みながら、青くて、ほろ苦さもあった記憶を辿っていく。

三年生の、最後の文化祭の一枚が目に留まり。

「あっ。この時は友達が」

思い出し笑いを零しつつ、横に顔を振り向けた。
と。
征士君が間近でこっちを見つめていて。その眼差しがあまりに甘やかだったので。心臓がコトリ。積み木が転がるような軽い音を立てた。

目を逸らせないで、彼の顔が静かに寄ってきたのを微かに惑っても。逃げたい気持ちはなかった。

「・・・キスしていい?」

触れるか触れないかの寸前で、彼が低く囁いた。
私は答えを躊躇った、たぶん。でもその前に、唇にやんわり押し当てられた感触。この間みたいな一瞬じゃなく、何かを確かめるように少し長く。

一度はなれて、終わりかと思った束の間。今度はしっとりと重なる。
離れては重なる、を繰り返し。
気が付いたら、頭の後ろに征士君の大きな掌の温もりが密着していて。
私の顔の上げ具合を、彼が柔らかにコントロールしているのが分かった。

“ここを開けて”。
優しいノックで次第に深まっていくキス。

頭のどこかが冴えていて。
口の中で征士君と合わさっているのを。
冷静に受け止めている自分もいた。

圭太さんもこんな風に・・・、私を怖がらせないキスを何度もくれましたっけ・・・。


ふと。懐かしい人を瞼の裏に過ぎらせながら。・・・されるがままで。
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