恋は、秘密主義につき。
「そうだ、これ。箱根のお土産」

お互いあらたまった空気をさらりと流すように、征士君がトートバッグから取り出したものを私に手渡す。

「開けてみて」

細めた笑みに促され、10センチ四方の箱状の包み紙を丁寧に剥がしていくと。翼を広げた天使のクリスタルガラス細工が。
ただの置物と思ったら愛らしい両手に受け皿を持っていて、指輪や小ぶりなイヤリングを乗せられそうだった。

「わあ、可愛いですね! ありがとうございます、嬉しいです・・・!」

「良かった、気に入ってもらえて」

私の笑顔に、ほっとした表情で笑みを崩す征士君。
さっそく、ラックの二段目に座るふわふわ毛並みのテディベアの隣りに並んでもらった。ふーちゃんからプレゼントされたピンキーリングは、ここがお似合いかも知れない、と思い付きながら。


いつもしてもらうばっかりで。お返しはどうしましょう。
誕生日というワードが過ぎり、ベッドに腰掛けたままの彼を振り返る。
翻ったシフォンスカートの裾が揺れて、膝小僧を撫でた。

「あの・・・、征士君」

「ん?」

柔らかく傾げられた視線。

「えぇと。・・・なにか欲しいものはありますか?」

口に出してしまってから気付く。
普通こういうのって、訊かないものでしたっけ・・・?
愁兄さまも他のみんなも、いつも私に欲しいものを訊くのでうっかりしてました。
前に一実ちゃんが『相手が喜びそうなものをあれこれ想像して、悩んでプレゼントする方が気持ちが伝わる』って。相手任せなのは、良い時と悪い時があるって。
この場合、どっちだったのかと思考回路が一旦停止。

「ご。・・・めんなさいっ、やっぱり大丈夫です。聴かなかったことにしてください」

消しゴムで消せたら、と申し訳なく思いつつ。ぎこちなく笑んで見せるのが精一杯。
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