そのままの君が好き〜その恋の行方〜
結局、俺はまたしても酔っ払いの世話をさせられる羽目になった。井口を先に帰し、足取りの覚束ない三嶋を、なんとかタクシーに乗せようとするが、言うことを聞かない。


仕方なく、少し酔いを覚まさせてから、送ることにして、俺は三嶋を座らせる。


「毎回毎回、こんなになりやがって。そのうち、なにかあっても知らないからな。」


「大丈夫、総一郎とじゃなきゃ、こんなになるまで呑まないから。」


「三嶋・・・。」


また、総一郎って呼ばれて、俺は複雑な気持ちになる。しかし三嶋はそんな俺に気付かずに言う。


「でも許せない、絶対に許せないよ、あの女。なんで総一郎は黙ってるの?」


「またその話か。」


「だって、あなたと付き合ってたのに、裏切って、他の男とくっついたんだよ。その上、おあいこくらいに思ってるから、罪の意識も感じてないんだよ、きっと。本当は違うのに。」


「もういいよ。仕方ないさ、せっかくのチャンスを勇気がなくて、みすみす逃したのは、俺自身なんだから。」


「総一郎・・・。」


切なそうに俺を見る三嶋に、笑顔を向ける。


「いくら足掻いても、人の心は変えられるものじゃない。それに確かに付き合ってたと言えば、そうだけど、好きだっていう一言もちゃんと言えてないのに、彼氏面するなって話だよ。」


「・・・。」


「彼女も、これまで、結構恋愛では辛い思いをして来てるみたいだし、今度こそ、幸せになってくれれば、それでいいよ。」


「幸せになんて、なれるわけないじゃん。」


「えっ?」


低い声でそうつぶやいた三嶋の言葉に、俺は驚く。


「私の大好きな人に、こんな辛い思いをさせて、自分だけ幸せになろうなんて、虫が良すぎるよ。そんなの、絶対にあり得ない!」


そう言って、目にいっぱい涙を浮かべて、俺を見る三嶋。そんな三嶋の肩を、俺は思わず抱き寄せる。


「三嶋、ありがとう。俺の為に泣いてくれて。でも俺は大丈夫だから・・・ここまで自分のことを思ってくれてる子を、キチンと抱きしめられない俺って、相当残酷だよな。許してくれ。」


「さっき、総一郎が言ってたじゃん。人の心は変えられないって。だから、私は新しい恋を求めて、歩き出す。そう決めたから、安心して。」


そう言って、懸命に俺に泣き笑いの顔を向ける三嶋。


「じゃ、帰ります。今日はありがとう。」


「送ってくよ。」


「ううん、大丈夫。これ以上は・・・辛くなるから。」


「三嶋・・・。」


「会うのは、これっきりにしよ。ただし、電話とメールは、お互いどちらかに相手が出来るまで、よろしくお願いします。」


「わかった。こちらこそ、よろしく。」


「じゃ、おやすみ、総一郎。」


「おやすみ・・・理沙。」


とうとう名前で呼んじまった。俺にそう呼ばれて、本当に嬉しそうに微笑むと、三嶋は俺に背を向けて、歩き出して行った。
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