そのままの君が好き〜その恋の行方〜
荷物を下に置き、私が絵里ちゃんを受け取ると、和樹さんがカギを開ける。


ドアを開き、中に入った私達は凝然となる。中には、灯りが点き、パタパタと足音が近づいて来たかと思うと


「お帰り。どこ行って・・・。」


華やかな表情で、現れたその女性も、私達を見て固まる。


絵麻(えま)・・・。」


和樹さんがポツンとつぶやく。かつての和樹さんの携帯の待受画面が、蘇る。そっか、絵麻さんって言うんだ、奥さん。絵里ちゃんの「絵」は奥さんからもらってたんだね・・・。


私がそんなことをボンヤリ考えてると


「ねぇ、和樹。その女、何者?」


と言う奥さんの険しい口調のセリフに、和樹さんもハッと我に返って、言い返す。


「お前こそ、ここで、何してるんだ?」


「何って、今日は絵里の誕生日だから、ご馳走作って、待ってたんじゃない。」


「何、澄ました顔で言ってるんだ。今までどこで、何してたんだ!」


「そっちこそ、その図々しくも絵里を抱っこしてる女が何者か、説明しなさいよ。」


「図々しいのは、どっちだ!」


あまりにも分かりやすく始まった修羅場に、私が為す術もなく、立ち尽くしていると


「ママ!」


と言う耳元に響く声。私がハッとその方を見れば、目を覚ました絵里ちゃんが、私の腕から降りようともがいている。とっさに絵里ちゃんを下に降ろすと


「ママ!」


絵里ちゃんが夢中で、奥さんに飛びついて行く。


「絵里!」


「ママ、ママ、今までどこ行ってたの?絵里、ずっと寂しかったんだよ。もう、絶対にどこにも行かないでね。」


「ゴメンね、ゴメンね、絵里。もうママ、絶対にどこにも行かないから。許してね。」


絵里ちゃんを抱き上げ、頬を愛しそうにすり合わせる奥さんの姿を、私は言葉もなく見つめていたけど、その光景に耐えられなくなって、ドアに手を掛けた。


「加奈!」


それに気づいた和樹さんが、慌てて声を掛けて来るけど。


「帰ります。」


と静かに私は言った。


「加奈・・・。」


「あとは、お二人でよく話し合って下さい。」


そう言い残すと、私は部屋を出た。外に出た途端、私にまとわりつく暑苦しい空気が、私の不快感をますます強める。


(もう、ここに来ることは、たぶん、2度とない・・・。)


足取りも重く、駅に向かう私の中で、敗北の予感が一歩一歩大きくなって行くのが、堪らなかった・・・。
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