そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「行ってきます。」


今日も仕事に向かう私。あれから1週間が過ぎていた。


あの日、和樹さんとお別れして、家に帰って来た私は、やっぱり泣いてしまった。これでよかったんだ、私の決断は間違っていないとは思っていたけど、それで未練や後悔がゼロになるわけでは、決してなかった。


今まで、自慢ではないが、こと恋愛に関してはロクな思い出がない。いつも振られて、悲しい思いをしてきた私が、今回初めて振った形になった(でいいんだよね?)。それで、今までと違って、少しは楽なのかと思ったら、まるで見込み違い。


ここしばらく、心配しながら私を見守ってくれていた母が、堪りかねて部屋に入ってきた時


「お母さん、私失恋しちゃった。」


って、25歳にもなって、縋ってワンワン泣いてしまった。私の今回の恋愛が、ワケありであることは、母には言ってなかったけど


「辛い恋だったろうけど、加奈は間違ってなかったと思うよ。」


となにやら、察していたようなことを言われた時には、母親の優しさと娘を思う心に感動して、余計涙が止まらなくなった。


翌日、これまたいい歳をして、恥ずかしいのだが、両親に食事に連れてってもらった。娘を大好きなイタリアンに誘ってくれて、父も母も、特別何か言うわけではなかったけど、何事もなかったかのように、普通に接してくれるのが、とにかく嬉しくて、ありがたかった。


こうして心機一転、また忙しい日常に、身を委ねる日々が始まった。季節は移ろい、いつしか秋から冬に向かおうとしていた。満員電車に揺られながら、今日こなすべき業務を頭の中で整理する。


これから暮れに向けて、予算案の作成に忙殺される時期を迎える。忙しいのは、今の私にとっては大歓迎だ。去年は、ちょうどこの時期は実習で、本省を離れていたから、2年ぶりのあのドタバタが、ちょっと楽しみでもある。


電車を降りて、役所に向かう途中で、メ-ルが入って来たことに気付いた。開けてみると悠から。


『おはよう、忙しい時間にゴメンね。今週末、用事があって、子供達と実家に帰ります。日曜日、実家の近くでよかったら、ちょっと会わない?返事は仕事が落ち着いた時間になってからでいいです。』


私は、和樹さんとの顛末を、事情を知っている2人の親友に報告した。電話で話すのは辛くて、メ-ルにしてしまったんだけど、悠からは割とすぐに返信があったんだけど、由夏はナシのつぶて。ほら、見たことかと呆れているんだろう。


『ありがとう。私も悠の顔が見たかった。日曜日、よろしくお願いします。』


私がそう返信したのは、昼休みに入ってからだった。
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