そのままの君が好き〜その恋の行方〜
私達の雰囲気が落ち着いたのを、見計らったかのように、奥さんが私達の前に、クレープを運んで来た。戸惑う私達、だって、私達はまだ何も注文してなかったから・・・。


「これで、間違いなかったかしら。」


そう言って微笑んだ奥さんが、置いてくれた目の前のクレープは、確かに私達がそれぞれ、かつてここで好んで頼んだものだった。そして、間違いなく私達は今日、それを頼んだだろう。


「夫婦2人でやってる店で、新メニューなんて、全然ないから。」


「覚えてて下さったんですか?私達の好きだったメニュー。」


「ここによく来てくれた人の好みは全部・・・って言いたいけど、まぁ7割くらいかな。お陰様で、あなた達の後輩のみんなにも贔屓にしてもらって、なんとかやってるけど、最近はあなた達みたいに久しぶりに尋ねて来てくれる人も増えて。それで不定期だけど、日曜も開けられる時は、店を開けてるのよ。まぁ味は変わってないつもりだから、召し上がって。」


「はい。」


頷いた私達は、それぞれ口に運んで異口同音。


「おいしい。」


おっしゃる通り、あの頃とおんなじ。私達にとっては、まさしく「青春の味」だ。


「ありがとう。」


と言ってくれたのは、厨房から顔を出したマスター。いかにも温厚そうな旦那さんで、仲睦まじい様子のご夫婦を見て


「私達もあんな風になりたいね。」


なんて話したこともあったのを、懐かしく思い出した。


懐かしい場所で、懐かしい味を楽しんで、私達はすっかり高校生気分。だけど、話してる内容は


「でも、その奥さん、したたかだよね。」


と高校生らしくはなかった。


「だってさ、結局ちゃんと保険掛けてたってことでしよ。男とダメになっても、娘を味方に付ければ、絶対に戻れるって計算して、離婚届置いていかないで、出てったんだよ。」


由夏の呆れたような言葉に、私達は頷く。


「見た感じは、とてもそんな人には見えなかったんだけどね。」


「私に言わせれば、そんな可愛い娘がいるのに、浮気した挙句、その子置いて出て行ったことが、まず信じられない。」


という悠の言葉には、実感がこもっていた。


「旦那さん、大変だろうね。そんな人とまた暮らすなんて、私だったら耐えられない。」


「じゃ、悠はもし先輩がそんなことしたら・・・?」


「もちろん即サヨナラ。2度と子供にも会わせない。でも大丈夫、パパは絶対そんなことしないもん。」


「はいはい、わかりました。」


悠の惚気を、由夏が冷たくあしらって、私達は笑う。こんな楽しそうに笑えたのはいつ以来だろう。やっぱりこの2人の親友は、私には絶対に必要だよ。


こうして、ひとしきりおしゃべりを楽しんだ私達は、席を立った。


「忙しいでしょうけど、機会があったら、また顔を見せてね。私達も、それが励みになるから。」


「はい、是非またお邪魔します。」


穏やかなマスタ-夫妻の笑顔に見送られて、私達は店を出た。なにか暖かい気持ちになった。
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