そのままの君が好き〜その恋の行方〜
その後、私達は、自然と母校に足を向けていた。悠と由夏は何回か機会があったみたいだけど、私は卒業以来、初めての母校訪問だった。


「懐かしいね、全然変わってない。」


「うん。でも変わって欲しくないよね、この光景は、ずっと。」


「そうだね。」


日曜日ということで、生徒の姿は少ない。でも部活に精を出す後輩の声が、響いて来る。高校時代、帰宅部を貫いた私達が、訪ねられる場所は当然1つしかない。


そこでも、後輩達が白球を全力で追いかけていた。ノックのボ-ルを取り損ねて悔しがる声、そんな仲間を励ます声、そしてそんな彼らを励ます黄色い声援・・・そこにいる顔ぶれは変わっても、変わらない光景がここにもあった。


私達はまだ25歳だけど、今の後輩達から見ればオバサンに見えるのは仕方ない。そのオバサンたちが、何をここでしてるのか、奇異に感じたかもしれない。でも私達は、しばしこの光景に見入ってしまっていた。


「今でも、2人のような恋が生まれてるのかな?ここで・・・。」


私は、ポツンとつぶやいた。悠も由夏も、かつて想い人をここから見つめて、応援していた。そして2人とも、その相手から、この場所で想いを告げられ、心を通じ合わせた。2人にとって、ここは生涯忘れることの出来ない、大切な場所。


「私はそんなあなた達を羨ましく見ていた。いつか、私にもそういう人が現れるって、信じてたんだけど、な・・・。」


そんなことを言い出した私を、2人はびっくりしたように見つめる。


「でもダメみたい。どうも私、そういう星の下に生まれてるみたい。」


「また、そんなこと言い出して・・・。」


「そうだよ。そんな悲しいこと言わないで。」


2人は慌てて、たしなめ、励ましてくれるけど


「最初に想い合った人と、ちゃんと結ばれてる2人にはわからないよ。そりゃ楽しいことばかりじゃないだろうけど、恋愛って生きる力をもらって、幸せになる為のパスポ-トだと思ってた。でもここまで辛い思いしか出来ないんじゃ、嫌にもなるよ。というか私、恋愛の才能なさすぎ。」


「加奈・・・。」


「恋愛はもういいかな。いちいち傷ついて、落ち込んでる時間が、もったいないよ。自分でも悲しい負け犬の遠吠え言ってるのは、わかってるけど・・・もう無理。」


「・・・。」


「そう言えば・・・、沖田くん、どうしてるかな?彼も結構、いろいろあったみたいだけど、彼には・・・幸せになって欲しいな。心からそう思う。」


背番号1を付けたエ-スがピッチング練習をしている姿が目に入って、私はふと、かつて憧れていた白鳥先輩ではなく、私達の学年の背番号1である沖田くんの姿を思い出していた。


そう言いながら、グラウンドをじっと見つめていた私は、悠と由夏が複雑そうな表情で、顔を見合わせていることに、全く気付いていなかった。
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