そのままの君が好き〜その恋の行方〜
師走に入った。私達官僚にとって、ないがしろにすることは許されない国会も終盤に入って、どうやらヤマを越えた気配。でも、今度は予算関連の作業が佳境に入って来て、息を抜く暇なんてない。


連日、終電かそれに近い帰りで、疲れはたまる一方。体調管理に気を付けないと。


この日も、作業に追われ、危うく昼食を食べ損ねるところ、ギリギリで省内の食堂に滑りこんで、ホッとしていると、隣のテ-ブルでの話が耳に入って来た。


「それにしても、アイツもついてないよな。厄年じゃねぇのか?冗談抜きで、1度厄払いにでも行った方がいいな。」


「うん。アイツも本省に残ってれば、そんなトラブルに遭遇することもなかっただろうし。」


「とにかく、こっちがもう少し落ち着いたら、近藤誘って、忘年会兼ねて集まろう。」


その話を聞くともなく聞いていた私は、「近藤」というワ-ドに思わず反応してしまった。見れば、話をしていたのは和樹さん・・・じゃなくて近藤さんの同期の人達。次の瞬間、私は尋ねてしまっていた。


「近藤さん、何かあったんですか?」


突然そう声を掛けられて、その人達は驚いて、私の顔を見たけど


「ああ。君、確か近藤の後輩だったなぁ。うん・・・なんかアイツ、何日か前、酔っ払いかなんかに絡まれて、ぶん殴られたんだって。」


「えっ?」


私は驚く。


「それで、お怪我は?」


「ケガは大したことなくて、普通に出勤してるようだ。ただその時は、警察が来たりして、結構な騒ぎだったらしい。」


近藤さんがそんなトラブルに巻き込まれていたなんて・・・。私は言葉を失った。


その人達が席を立った後、私は考えていた。とにかく心配だったから、様子を尋ねたかった。ただ、今、私が連絡をすることで、近藤さんに迷惑を掛けることになりかねない。なんといっても、私達はもう別れたのだから・・・。


散々迷った挙句、私は結局、お見舞いのメ-ルを打った。


『突然メ-ルをしてしまい、ごめんなさい。ただ、近藤さんがケガをされたとお聞きして、居ても立ってもいられなくなって、ご連絡しました。具合はいかがですか?寒さ厳しく、また年末の多忙の時期ですが、どうかご自愛下さい。   桜井』


返信がなくても仕方ない。でもどうしても知らん顔が出来なくて、メ-ルしてしまった。私は1つ息を吐くと、携帯をしまい、仕事場に戻った。


時間は刻々と過ぎて行く。今日もこれは終電コ-スかな、とふと時計を見れば、針は7時を指そうとしている。夕飯の調達をしなくては、と席を立った私は、携帯を開いた。すると近藤さんから返信が。


『桜井さんの耳にも入ったのか、心配をおかけしてすみません。本省の連中にどんな風に伝わってるのかわかりませんが、大したことはありません。目の回るような忙しさなのに、お気遣いありがとう。では。    近藤』


返信があったことと、本当に大したことがなさそうなのと両方にホッとして、携帯をしまった。
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