そのままの君が好き〜その恋の行方〜
近藤と別れた後、携帯を確認した俺は、判っていたこととは言え、申し訳なくて、思わず携帯に向かって頭を下げる。着信の嵐、留守電の山、すべて俺の母親からだ。


警察に連れて行かれた俺は、当然身元確認をされたはず。連絡を受けた母親はそれこそ、飛び上がる程に驚いただろう。


俺が電話すると、母親はもはや発狂寸前。代わって電話口に出た父親には散々に怒られた。いい齢をして、ここまで親を心配させ、怒らせ、俺はただただ携帯を握ったまま、頭を下げた。親のありがたさ、愛情が今更ながら心に沁みた。


今夜は帰って来いという父親に、明日は早いからと何とか納得してもらって、俺は家路に着いた。明日の準備をしなければならなかったから。


翌日、いつもより早く出社した俺は、課長を待った。身元確認が親だけで留まっているはずがなかった。果たして硬い表情で現れた課長に俺は頭を下げて、刑事事件にはならないで済んだ旨を報告すると、ホッとしたように表情を緩めた。


あんまり心配をかけてくれるなと、笑顔で言ってくれた課長に、俺が辞表を差し出すと、たちまち課長の表情が強張る。


「本当にご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。相手の方のご厚意で、娑婆にはいられることになりましたが、僕のやったことが消えるわけではありません。責任は取らなければいけないと思います。この年末は、もちろん力の限り、業務に邁進し、その面で絶対に会社にご迷惑をおかけすることはいたしません。短い間ですが、引き続きよろしくお願いします。では、行って参ります。」


そう言って、一礼すると、俺は唖然として見送るだけの課長以下の同僚に背を向けて、予定通り、取引先に向かった。


その後、課長を始めとした何人もの同僚から、連絡が入ったが、俺は敢えて無視し続けた。そして夕方帰社すると、課長に引きづり込まれるように、面談室に連れ込まれた


「警察に連絡して、今回の件はもう終わってるという確認をした。相手の方も、これ以上一切ことを荒立てるつもりはないと言ってくれたそうだし、会社もこの件に関しては、厳重注意以上の処分はないと言ってる。心苦しいのは分かるが、これ以上我を張ることは、かえって、みなさんに迷惑を掛けるだけだ。辞表は俺の所で止めておく。もう1度考え直せ。」


と懇願するように言ってくれたのは、有難かったが、俺は首を縦には振らなかった。しばらく押し問答をしたが、とにかく一晩考えろと言われて、俺は部屋を出た。


退社後、改めて携帯を確認すると、金澤さんや同期の連中から山のような連絡が。もうこんなに広まっているのかと驚くとともに、これをどうやって返信しようかと、やや困惑しているところに、着信音が鳴った。三嶋からだった。
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