そのままの君が好き〜その恋の行方〜
三嶋さんと話して、職場に戻った私は、動揺を抑えるのに必死だった。彼女が私に話してくれた内容は、そのくらいショックだった。


近藤さんに暴力をふるったのが沖田くんだったこと、それは私の為だったこと。更に私を驚かせたのは


「あなたはおあいこくらいに思ってて、平気だったんでしょうけど、あの人は、沖田さんはあなたを裏切ってなんかいない。あの時、私は確かに沖田さんと一緒にいた。でも、私ははっきり沖田さんに振られたの。それなのに・・・よりにもよって、既婚者なんかになびいて、沖田さんを裏切って、それで今の今まで、そのことに関しては、何の罪悪感も抱いたこともなかったんでしょ?最低だよ、・・・最低過ぎる!」


そう言って、私をにらみつけると、三嶋さんは駆け出して行ってしまった。私はそんな彼女の後ろ姿を見送るしかなかった。


とりあえず、今日為すべきことをこなし、私が省を出たのは、例によって11時を過ぎていた。


(沖田くん・・・。)


三嶋さんが言ってたことが真実なら、私は本当にどうしたらいいのだろう。とりあえず、沖田くんに連絡を取るべきなのだろうか?私の仕出かした不誠実を詫び、私の為に会社を辞めるようなことはしないで欲しいと言うべきなのだろうか・・・?


しかし、今の私に、沖田くんの声を聞く勇気はなかった。今更、どの面下げて・・・心の中から湧き上がる自分の言葉に抗えず、もう時間が遅いということを奇貨として、私は沖田くんと向き合うことから逃げて、家路についた。


それから、私の友人達も沖田くんの会社の上司、同僚達も懸命に、彼に辞表を撤回するように説得した。しかし、ついに彼が翻意することはなかった。


彼が全て業務を終え、送別会の申し出も断り、株式会社A社を退職したのは、仕事納めの12月28日。当然の権利である有給休暇の取得すら


「結果として、3年も勤められなかった人間が、有休消化なんて、おこがましすぎます。」


と辞退して、去って行ったのだそうだ。


そして私はと言えば、そんな沖田くんに何もしてあげることが出来なかった。会うことも、電話で話すことも、そしてメ-ルする勇気すら持てなかった。


同じ仕事納めの日、重い心を引きずるように退庁した私を、また三嶋さんが待ち構えていた。


「あれだけお願いしたのに、あなたはとうとう何もしてくれなかった。私があの人の彼女になれなかったことで、あなたを恨むのは逆恨みでしかない。だけど、あなたは私から尊敬する会社の先輩としての沖田総一郎も奪った。絶対に許さない、あなたのことは一生許さないから!」


私は何も言う事は、出来なかった・・・。
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