そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「よし、今日はこれまで。」


星監督の声がグラウンドに響く。これがもし居郷さんの声だったら、ますますタイムトラベルの世界にハマりこんでしまったかもしれないが、我に返った俺は、後輩達に混じって片付けに入る。


そして、最後の挨拶を済ますと、俺は桜井さんに駆け寄った。あの朝の気まずい別れ以来の再会。正直、わだかまりの気持ちを持ってたはずなのに、気が付けば、躊躇うことなく、彼女の所に足を運んでいた。


「しばらく。」


「うん、久しぶり。」


「どうしたの?こんな所で。」


そう聞いた俺に、一瞬俯いた桜井さんは、すぐに俺を見て言った。


「・・・沖田くんに会いたくて。」


「えっ?」


「沖田くんと話がしたくて、来ちゃいました。週末はここにいるって聞いたから。」


「桜井さん・・・。」


「迷惑、だったかな?」


そう言って、不安そうに上目遣いで俺を見る桜井さん。この子も、こんな表情するんだな・・・。俺は静かに首を横に振った。


「そんなことないよ。じゃ、急いで着替えて来るから。」


と言って、駆け出そうとする俺を


「待って。」


と呼び止める桜井さん。


「出来たら、ここがいい。ここでお話したい。」


そう言って、また俯き加減になる桜井さん。


「そっか。じゃ。」


俺はそんな桜井さんの横に立って、グラウンドを見る。


後輩達が続々と引き上げてくる。みんな訳ありそうな雰囲気の俺達に、興味津々の様子だが、さすがに声をかけてくるヤツはおらず、俺達に挨拶や一礼をしながら、去って行く。


ギャラリーもいつの間にか、いなくなり、最後に星監督がニヤリと俺に意味ありげな笑みを向けて、グラウンドを去ると、俺達はとうとう2人きりになった。


沈黙が俺達を包む。冬の陽はあっと言う間に暮れ、辺りはもう夜と言って良かった。


「ユニフォーム姿、久しぶりに見た。」


「えっ?」


「似合ってるね、あの頃とおんなじ。」


「そう、かな・・・。ありがとう、褒め言葉として、受け取っとくよ。」


そう言って、一瞬笑い合った俺達だけど、すぐにまた沈黙に引き戻されてしまう。


このままじゃ、埒が明かない。そう思った時だった。


「ごめんなさい。」


いきなり桜井さんが、そう言って俺に深々と頭を下げた。


「今更、どの面下げて、俺の前に現れた?そう言われても当然です。本当にごめんなさい。」


そう言う彼女の声は、涙声になっていた。
< 144 / 177 >

この作品をシェア

pagetop