そのままの君が好き〜その恋の行方〜
それから俺は、改めて就職活動に精を出した。年度変わりの4月からは、新たなスタートを切りたい。そう目標を定めて、日々を過ごしていた。


3月に入って、気が付けば、井口からのSOSはなくなっていた。そう言えば、三嶋からもいつの間にか、何の音沙汰も無くなった。


東北からは、塚原がオープン戦で好投したというニュースも飛び込んで来た。みんな、自らを成長させようと、明日に向かって歩んでいるんだ。俺だけが、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。


この日、俺が受けたのは、引っ越し会社の営業職だった。


面接に行って、まず突っ込まれるのは、前の会社を退職した理由なのは、仕方がない。まさか暴力事件の責任をとってとは言えないし、別に刑事事件にもなってないことをわざわざ、自分から言う必要もない。


職場の人間関係もあったが、同じ営業職でも、固定された相手ではなく、もっとアクティブに自分の力を発揮してみたかったからと、少々強引な理由を述べると、それ以上のツッコミはなく、ウチは営業担当でも最初は現場を経験してもらう。体力の方は大丈夫ですかと聞かれたので


「高校まで野球をやってましたし、現在も後輩達の指導で汗を流しています。その方は自信あります。」


と力強く答えておいた。


それがよかったのかどうかは、わからないが無事に一次面接を突破した俺は、2日後に二次面接へ。そこでも手応えを感じた俺は、自信満々で最終面接の連絡を待った。


すると翌朝、最終面接の連絡が来て、内心ガッツポーズ。明日は土曜日ですが、ご足労願えますかと、丁重なお言葉に恐縮する。もちろんこちらに否応などあるはずはなく、よろしくお願いしますと答えて、電話を切った。


そして、当日。指定された場所は、受けている会社の本社で、土曜日にも関わらず、ちゃんと受付嬢が座っていた。


「面接で伺った沖田と申します。」


「S社の面接の方ですね。お待ちしておりました。では、ご案内いたしますので、こちらへどうぞ。」


えっ、わざわざ案内してくれるの?なんかVIP待遇じゃん。たかが最終面接に来ただけの奴に対して。誰かと間違えてるのかとも思ったが、確かに面接の方ですね、って言ったもんなぁ。


さすがに戸惑いを隠せないまま、受付嬢の後に付いて歩き出した俺はエレベーターで7階まで上がると、そのまま面接会場と思われる部屋まで、案内された。


「失礼します。沖田様をご案内して参りました。」


ノックをして、中に呼びかけた受付嬢の言葉に仰天する。おいおい、沖田様っていくらなんでもおかしいだろ。


「ご苦労様。お入りいただいて下さい。」


「はい。では、どうぞ。」


とにかく様子がおかしい。部屋の中から返って来た声が、受付嬢と大して歳も変わらなそうな若い女性のものだったのにも驚きと戸惑いを感じながら、俺は部屋に入った。


「失礼します、沖田総一郎です。本日はよろしくお願いします。」


「お待ちしてました。」


戸惑いを隠しながら、部屋に入った俺は、まずは相手に向かって一礼。だけど、返って来た声に聞き覚えがあって、ハッと顔を上げた俺は、次の瞬間、息を呑んだ。
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