そのままの君が好き〜その恋の行方〜
建物の地下にある駐車場に唯と一緒に降りた俺は、彼女に案内されるまま、車に乗り込んだ。それは、眩しいばかりの外車。俺が日本の感覚で言えば、運転席であるはずの助手席に、身を滑り込ませると、唯が華麗に車をスタートさせる

駐車場係員の最敬礼に見送られて、ビルを出た。


「やっぱり凄いな。」


「えっ?」


「車は外車、見送る係員は最敬礼。さっきの俺に対する受付嬢の応対だって、とても面接受けに来た奴に対する態度じゃなかったもんな。事前になんか言っといたの?」


「今日来る人は、私の大切なお客様だから、失礼のないように、って。」


大切なお客様って・・・。


「さすがに、白鳥財閥のご令嬢は違うな・・・。」


俺は、この子に住む世界が違うって振られたんだ。思わず、皮肉めいた言葉を口にしてしまった俺に


「そんな言い方しないで!」


とハンドルを握ったまま、唯は声を強める。


「ウチは財閥なんかじゃないし、普段白鳥の娘だって、会社の中で、肩で風切って、歩いてるつもりもない。車も、向こうじゃ学校通うのも車じゃないと、どうしようもないから、左ハンドルに慣れるしかなかった。だって、それまではいつもソウくんの助手席に座らせてもらって、ハンドルなんか握ったことなかったんだもん。」 


信号待ちになって、ちょっと悲しそうに俺を見る唯。


「ゴメン・・・。」


「ううん。」


信号が変わって、また車が走り出す。車内に気まずい空気が流れる。


その空気を変えようと、俺は唯に話しかける。


「いつ帰って来たの?」


「去年の10月末。6月で向こうの大学を卒業したあと、サマースクールや短期課程に通ったりしてたから。そして、11月から父の会社で働いてる。」


そうか、もう戻って来て、半年経つのか。もうなんの関係もないのだから、当たり前なんだけど、全然知らなかった。白鳥さんと呑んだ時も、先輩は何も言わなかったし。


「それで今は経営企画室って所で働いてる。名前は厳しいけど、要は企業が運営されてく上で、必要な雑務を一手に引き受けてる所。グループ企業の採用の元締めにもなってて、それであなたのことを知った。ビックリしたよ、正直。」


確かに、まさかこんな形で唯と再会することになるとは・・・こちらも正直、複雑だ。


こうやって2人でドライブしていることはもちろん、唯が運転して、俺がその助手席に座っていることも、なんか不思議な感覚だった。


車はいつの間にか、都内を抜けて、第三京浜に入っていた。唯がどこに行こうとしているのか、わかって来た。
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