そのままの君が好き〜その恋の行方〜
そして、俺達は2人になった。今日は珍しくあまり酔っていない三嶋。


「ちょっと・・・歩かない?」


井口の後ろ姿が見えなくなると、三嶋が言う。


「ああ。」


俺が頷くと、三嶋は照れくさそうにそっと、腕を絡めて来る。そのまま、言葉を交わすことなく、俺達は歩く。


「ねぇ?」


「うん?」


「ずっとこうしていたいって言ったら、どうする?」


「三嶋・・・。」


いたずらっぽい笑いを浮かべながら、でもその目は切なそうに、俺を見ていた。


「もう会うのはよそうって言ったのに、就職祝いに、かこつけて、また会っちゃった。でも、今度こそ、これが最後。」


そう言うと、三嶋は腕を離して、俺を見た。


「ダメだよね、男と女って。同性同士なら、友達でいることも出来るけど、いくら妹だ、なんだって屁理屈言っても、やっぱり無理。会社の先輩ー後輩でもなくなっちゃって、繋がってる理由、もうないもんね。」


浮かんで来る涙を懸命に堪えながら、三嶋は俺をじっと見て言う。


「桜井加奈にだけは、あなたを渡したくなくて、諦めの悪い女だと呆れられても、あなたに纏わりつこうかと思ってたけど、例の元カノさんまで、登場となれば、いよいよ私の出番もこれまでだね。」


そう言うと、泣き笑いの顔を俺に向ける。


「実は・・・同じプロジェクトの3年先輩からコクられてさ。」


「えっ?」


「結構イケメンで、仕事も出来る。本社でも人気ある人なんだけど、返事保留にした。」


「・・・。」


「ひょっとしたら、今日大逆転あるかもなんて、往生際の悪いこと考えちゃってたから・・・そんなわけないのにね。」


(三嶋・・・。)


俺はたまらなくなって、思わず上を向いた。


「どっちかに相手が出来たら、電話もメールも、おしまいって約束だったよね。だから、おしまい・・・です!」


ここで、ついに三嶋の目からは涙が・・・。


「沖田さんと出会って、一緒に仕事出来て、好きになって・・・楽しかったです。幸せでした。感謝してます。だけど、明日からは、彼の事だけ見て、そしてプロジェクト絶対成功させます。お世話に・・・なりました!」


そう言うと、三嶋は深々と俺に頭を下げた。


「三嶋・・・俺の方こそ、お前からたくさんの元気をもらった。お前の明るさと笑顔に癒やされてた。本当にありがとう、幸せになってくれよ。」


そう言った俺は、次の瞬間、三嶋の細い身体を抱きしめていた。


「ずるいよ、今更こんなことして。どうせなら最後まで、ヘタレで意気地なしの総一郎でいてよ。」


そんなことを言いながらも、俺に身を寄せる三嶋。


しばし抱き合った後、フッと三嶋が俺を見上げる気配がして、俺も彼女を見た。


「総一郎・・・。」


「理沙。」


そのまま、まるで磁石がお互いを吸い寄せ合うかのように、唇を重ね合う。最初で最後の別れのキス・・・。


やがて、どちらからともなく、唇を離し、またお互いを見つめ合った俺達だったけど


「さようなら。」


そう小さく呟くと、俺を振り払い、理沙は駆け出して行った。


(さようなら、理沙・・・。)


その後ろ姿を、俺は万感の思いで、見送っていた。
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