そのままの君が好き〜その恋の行方〜
中に入ると、部活帰りの後輩達の姿がちらほら。


「いらっしゃい。あら、今日は彼氏さんと?」


この前と同じように、笑顔で迎えてくれた奥さんが言う。


「残念ながら、彼氏ではないんですけど、昔のクラスメイトが、高校生の時に入りたかったけど入れなかったと嘆いていたので、連れて来ました。」


「それは、それは。さ、どうぞ。」


いつもの窓際の席に案内される。


「今だに常連なの?」


「ううん、去年の秋に卒業以来、久しぶりに来たら、覚えててくれたの。」


「へぇ、凄いね。」


沖田くんも感心したような声を上げる。


「オススメは何?」


「私はいつもイチゴチョコなんだけど。」


「よし、じゃ僕はイチゴチョコバナナといこうかな。」


と嬉しそうに言う沖田くん。


「沖田くんって甘党なの?」


「ああ。酒も好きだけど、どちらかって言われれば、甘い物の方が好きだな。」


「そうなんだ。」


「だから、昔、ここ来たかったんだよ。楽しみだな。」


なんてことを話してるうちに、早くも注文の品が登場。


「うわっ、美味そう。」


テンションが上がる沖田くんに、思わず笑ってしまう。


「沖田くん。就職活動、お疲れ様でした。ささやかではありますが、お祝い代わりに召し上がって下さい。」


「ありがとうございます。では、いただきます!」


一礼して、早速一口、口に運んだ途端、満面の笑みの沖田くん。


「美味い・・・。あぁ、こんなに美味いクレープが身近にありながら、それを知らずに卒業するなんて、バカだったなぁ〜。」


そう言って、真剣に悔しがっている沖田くんの姿がおかしくて、私は笑ってしまう。


「そんなに気に入ってもらえたんなら、光栄だわ。はい、どうぞ。」


セットの紅茶を運んで来た奥さんも、笑顔だ。


「本当に美味しいよ。桜井さん、ありがとう。」


「ううん。そんなに喜んでくれると、私も嬉しいよ。それに・・・。」


「うん?」


「今日、来てくれて、本当に嬉しかった。お前の顔なんか、もう見たくないって言われても仕方ないから・・・。」


そう言って、少し俯く私に


「バカだな。この前、言ったじゃないか。君が来てくれたことで、もうあの件については終わりにしようって。」


「うん、でもやっぱり怒ってたよね、あの時・・・。」


「僕だって聖人君子じゃないからね。それよりさ、ここでクレープおかわりする人、さすがにいないよね?」


「えっ?ええ、私は見たことない・・・かな?」


意外なことを言い出した沖田くんの顔を思わず見てしまう。


「よし、じゃ伝説作るか。すみません、プリンアラモード、お願いします。」


「かしこまりました。」


びっくりしたように返事をする奥さんと、驚きと好奇の目で見る後輩達。しかし、そんなものを全く気にしないで


「あっ、2枚目は自分で払うから。」


と真面目な顔で言う沖田くんに、私はまた吹き出してしまった。
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