そのままの君が好き〜その恋の行方〜
季節は流れた。


その日は、まぶしい、いや厳しいと言った方がいいくらいの日差しが朝から降り注いでいた。


その日差しを浴びながら、久しぶりにその場所を訪れた私達は、ゆっくりと階段を登って行った。


やがて、目の前に広がった光景。


「懐かしい・・・。」


思わず、私はそう呟いていた。眼下に広がるグラウンドは、あの当時と同じように、「ガラスのような」という表現ピッタリに、きれいに整備されている。その上を、ハツラツと動く選手達。


気温は既に30℃をとうに超えている。グラウンドは一体何度になっているのだろう。


ここは甲子園球場。全国の高校球児にとっては憧れの聖地とも言えるこの場所に、我が母校が、7年ぶりに登場するのだ。


私達は仕事の関係で、今、球場入りしたが、バスを仕立てて、今朝早く神戸入りした大応援団は、既にスタンドを占拠して、気勢を上げている。


残念ながら、私の2人の親友は、都合がつかず、一緒に応援することは叶わなかったが、テレビでガッチリ応援してるから、私達のぶんまでよろしくと、言われた。


それでもお世話になった先生やクラスメイトの顔もあって、挨拶を交わす。


応援席には、ベンチ入り出来なかった選手達もいて、年明けから3ヶ月間、彼らと汗を流した総一郎は、旧交を暖めていたが、隣にいる私に気付いた後輩達に


「なんだ、やっぱり彼女だったんじゃないですか?」


とツッコまれて


「違う。あの後、彼女になったんだ。」


と何故か必死に説明している姿に、笑ってしまった。


「あの時以来なんだね、ここに来るの。」


旧知の人との挨拶も一段落つき、シートに腰を下ろした私は、総一郎に言った。


「ああ。あれから9年か・・・。」


あの日、私達が2年生の夏だった。3年連続、夏の大会に出場した明協高校は、2年ぶり、2度目の優勝を掛けた決勝戦に臨んでいた。


右肩の怪我を押して、マウンドに立った白鳥先輩は、完全に肩を壊してしまい、3回途中でマウンドを去った。リリーフに立ったピッチャーも打たれ、試合は一方的になりかけた。


しかし、諦めずに反撃した我が校は、同点に追い付き、最後は松本先輩のサヨナラホームランで劇的な優勝を飾った。


その試合、6回からマウンドに上がり、相手の追加点を懸命に阻んで、味方の勝利を呼び込んだのが、誰あろう、今、私の横にいる総一郎だった。


「あの時の総一郎は、カッコよかったなぁ。」


「本当?覚えてるの、あの時の僕を?」


「覚えてるよ。先輩は退場し、リリーフの尾崎(おざき)くんも打たれ、総一郎が最後の砦だったんだから。本当に一所懸命に応援したんだよ。」


私は、あの時の総一郎の雄姿を今でも、思い出すことが出来る。


「そっか・・・でも、あの後も全然モテるようにならなかったんだけど。」


そう言って、苦笑いした総一郎だけど、すぐに表情を引き締めた。


「大した野球選手じゃなかった僕にとって、あの試合はたった1つの勲章だからなぁ。あの試合のお陰で僕は『甲子園優勝投手』の1人に数えられてる。社会に出ても、その肩書に何度も助けられてる。僕にとっては、やっぱり心の支えだよ。」


グラウンドを見ながら、そう言った総一郎の横顔を、私は見つめていた。
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